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横浜地方裁判所川崎支部 平成5年(ワ)13号 判決

原告

品川燃料株式会社

被告

主文

一  被告は、原告に対し、別紙第一目録記載の特許出願につき、特許庁長官に対し真正なる特許出願人名義が原告である旨の特許出願人名義変更手続をせよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、訴外日本クリングロウ株式会社(以下「訴外会社」という。)を経営しているところ、訴外会社の資金繰りが困難となり、原告に対し資金援助を要請したため、原告は、平成元年四月二〇日から同年一二月一日までの間において、被告の右要請に応じて、訴外会社に対し合計二二五〇万円を貸し付けた。

2  訴外会社は、平成元年一二月一日、原告に対し、右借入金債務の弁済に代えて、カルマリンの販売営業権等とともにカルマリンに関する別紙第一目録記載の特許出願中の権利(以下「本件権利」という。)を譲渡する旨の契約を締結した(以下「本件代物弁済契約」という。)。

3  原告は、訴外会社の印鑑証明書の印を押捺した本件権利の譲渡証書及びその印鑑証明書を添付の上、特許庁長官に対し、特許出願人名義変更手続をなしたが、訴外会社の特許出願書の印鑑が右印鑑証明書の印と違うため、受理されなかった。そこで、原告は、訴外会社の代表者である被告に対し、本件権利の譲渡証書に特許出願書押捺の印鑑と同一の押印を求めたところ、被告は、それに応じず、その後、訴外会社が倒産したため、右訴外会社の債権者が多数おり本件権利の出願人を原告に名義変更すると右債権者から苦情が出ると称して、原告の了解なしに、便宜上、本件権利の出願人を訴外会社から被告に名義変更手続をした。

4  被告は、被告個人としても本件代物弁済契約を包含する契約に合意しているとともに、本件権利の出願人である訴外会社の代表者であるから、右代表者として原告に対し名義変更すべき義務があり、更に、訴外会社が本件権利の出願人を被告名義にしたのは、前記3のとおり、訴外会社の債権者対策上、原告のために一時的に為したものであるから、被告は、訴外会社が原告に対し本件権利の出願人を名義変更する義務を承継したものである。

よって、原告は、被告に対し、本件権利の出願人名義変更手続を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2(一)  請求原因2のうち、訴外会社が本件権利を譲渡する旨の契約書(以下「本件契約書」という。甲第三号証)を作成したこと(ただし、日付は原告主張日と異なる。)は認め、その余の事実は否認する。

(二)  原告と訴外会社との間においては、以下の事情により、相互に本件代物弁済契約を締結する意思を真に有していなかったものである。

(1) 原告は、本件契約書作成後、訴外会社に対し、本件権利の譲渡証書に特許出願書押印の印鑑と同一の押印をするよう何度も求めた旨主張するが、原告は、訴外会社が右押印に応じないにもかかわらず、平成四年三月まで被告に対し顧問料を支払い、また、その後において、訴外会社に対し四五〇万円の融資をなし、更に、原被告間において、平成四年七月までカルマリンCに関する事業につき相互に話合いがなされている。

(2) 原被告間においては、本件契約書作成以前にも、原告の訴外会社に対する債権を担保するため、本件権利について譲渡担保契約を締結したことがあるものの、右債務が弁済されなかったにもかかわらず、担保権は実行されなかった。すなわち、原告は、訴外会社に融資する以上、会社内部の決済をとるために形式的に譲渡担保契約を締結する必要があったが、真に本件権利を譲り受ける意思はなかったものである。そして、本件代物弁済契約も右と同様に、原告の訴外会社に対する融資を実行するために形式的に締結されたものにすぎない。

(3) 訴外会社は、本件権利を開発及び販売するために少なくとも約一億円の費用と多大な労力をかけ、また、本件契約書作成当時、年間二〇数億円といわれた舐用固形飼料の市場を独占していた日本全薬工業株式会社に対し、本件権利により右市場の一角にくいこもうという販売戦略を有し、カルマリンが年間の売上として三億円を目標にしていた商品であることからして、本件権利を二〇〇〇万円余りの対価で譲渡することはあり得ない。

3  請求原因3のうち、原告が本件権利につき名義変更申請をしたが、受理されなかったこと及び訴外会社が被告に対し本件権利につき名義変更手続をしたことは認め、その余の事実は否認する(なお、訴外会社は、被告に対し本件権利の名義変更手続をする際、原告の承諾を得ていたものである。)。

4  請求原因4の主張は争う。

三  抗弁

1  暴利行為による本件代物弁済契約の無効

訴外会社は、前記二2(3)のとおり、カルマリンの製造・販売に多大な費用と労力をかけたものであるから、本件代物弁済契約は対価として著しく不均衡であり、また、右契約当時、カルマリンの製造を委託していた原告の子会社である栃木ブリケット株式会社(以下「栃木ブリケット」という。)から度重なる出荷停止をされ、被告の窮状に乗じて本件代物弁済契約が締結されたものであり、右事情の下においては、本件代物弁済契約は、暴利行為であり民法九〇条により無効である。

2  本件代物弁済契約の合意解除

原被告及び訴外会社は、本件契約書作成後も長期間に亙り協議を重ねてきた結果、訴外会社と原告は、平成四年五月二〇日、本件代物弁済契約を合意解除して、本件権利を訴外会社へ戻し、訴外会社は、原告に対し二二五〇万円を分割して弁済する旨合意した。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1について

抗弁1の主張は争う。

2  抗弁2について

抗弁2の事実は否認する。

被告主張の合意は、株式会社カルマリンの原告への協議項目の検討申込みにすぎないのであり、原告は、本件権利の出願人名義変更後に協議すべきものとして了解したものである。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  カルマリンの開発・販売の経緯

1  請求原因1の事実、請求原因3のうち、原告が本件権利につき名義変更申請をしたが、受理されなかったこと及び訴外会社が被告に対し本件権利につき名義変更手続をしたことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、成立に争いのない甲第一、二号証、第四号証の三、第六号証の一、二、第七号証、第八号証の一ないし四、第九号証、乙第一ないし三号証、第五、六号証、被告作成部分の成立につき当事者間に争いがなく、その余の部分につき証人Aの証言及び被告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三号証、証人A証言により真正に成立したものと認められる甲第四号証の一及び第五号証の一、被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四号証の二及び第五号証の二、A作成部分の成立につき争いがなく、その余の部分につき被告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第四号証、証人Aの証言、被告本人尋問の結果(ただし、後記採用しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一)  被告は、帯広畜産大学及び日清製粉中央研究所等において、乳牛の飼料(舐用学)の研究を行った後、昭和五九年頃、同人の父が設立した訴外会社に勤務することとなり、その頃から舐用固形飼料(カルマリンC)の開発に着手した。被告は、その後、同六〇年五月二〇日、右会社の代表取締役となった。訴外会社は、昭和六二年頃、被告が中心となって、カルシウム及びミネラルを含有した天然の微量栄養素に食塩を混合した乳牛・肉牛用の舐用カルマリンCを開発して、右カルマリンCにつき特許を申請した。そして、訴外会社は、カルマリンCの開発当初から、原告の子会社である栃木ブリケットに対し実質的に右製造を委託していた。

(二)  原告は、平成元年頃、訴外会社からカルマリンCを購入して販売することを企図し、同年四月一日、訴外会社との間において、原告が訴外会社からカルマリンを継続的に買い受ける旨の売買基本契約を締結した。被告は、その頃、カルマリンCに製品上の欠陥があり、購入先から値引き等を要求されたこと等から訴外会社の資金繰りが困難な状況に陥ったため、原告に対し融資方を申し入れた。その結果、原告は、平成元年四月二〇日、訴外会社に対し同年一〇月から分割弁済の約定で五〇〇万円を貸し付け、その際、右貸付金債権の担保として本件権利を譲り受けた。しかしながら、原告は、訴外会社が右分割弁済をしなかったにもかかわらず、右譲渡担保権を実行しなかった。

訴外会社は、右借入金債務の弁済をせず、また、栃木ブリケットに対し昭和六三年八月二五日までに支払うべき買掛代金債務五〇〇万円の支払も滞っていたが、被告は、更に、平成元年一一月頃、原告に対し手形決済資金の融資方を申し入れ、原告は、同月一七日及び二四日、訴外会社に対し各五〇〇万円合計一〇〇〇万円を貸し付けた。

(三)  原告は、訴外会社において、資金繰りが苦しく、栃木ブリケットに対する前記買掛代金債務が滞り、原告に対する右借入金債務の弁済の目途もなく、カルマリンの販売事業の継続が困難な状況にあるとの判断に至ったため、前記融資以降、被告との間において、カルマリンの事業を原告に承継されることにつき話合いがなされた。そして、被告は、その頃、原告に対し、更に五〇〇万円の融資方を申し入れた。

そこで、原告は、平成元年一二月一日、訴外会社に対し二五〇万円を貸し付けた上、右同日、訴外会社及び被告との間において、①訴外会社及び被告の資金不足等の理由によりカルマリンの事業継続が困難になったため、原告がカルマリンの販売を継続すること、②訴外会社は、原告に対し、平成元年四月二〇日付けの借入金債務五〇〇万円、同年一一月一七日及び同月二四日付け借入金債務各五〇〇万円、同年一二月一日付け借入金債務二五〇万円、栃木ブリケットに対し、昭和六三年八月二五日付けの買掛金代金債務五〇〇万円の合計二二五〇万円の債務を負担していることを確認すること、③訴外会社は、右②の二二五〇万円の債務の弁済に代えて、原告に対し、訴外会社の所有する別紙第二目録記載の権利、本件権利及びカルマリンの販売に関する営業を譲渡すること(本件代物弁済契約)、④訴外会社及び被告は、原告に対し、カルマリンの販売のためのノウハウ、市場情報等を積極的に提供し、また、カルマリンにかかる新規商品開発は原告と共同で行い、第三者とは提携しないこと、⑤原告は、被告に対し報酬を支払うこととし、右金額及び支払方法等については別途協議すること等の合意をした(以下「本件合意」という。)。そして、原告と被告は、右同日、平成元年一二月一日から同二年一一月三〇日までの間、原告が被告にカルマリン事業の顧問に委嘱し、顧問料として月額五〇万円を支払う旨合意した(以下「本件顧問契約」という。)。

被告は、右同日、訴外会社の代表者として、本件権利を原告に譲渡する旨の譲渡証書(以下「本件譲渡証書」という。)を作成し、訴外会社の印鑑証明書とともに原告の担当者であるA(以下「A」という。)に交付した。

(四)  原告は、平成元年一二月四日、特許庁長官に対し、本件権利の出願人名義変更手続申請をしたが、同二年三月一三日、本件権利の特許出願申請書に押印された印鑑と本件譲渡証書に押印された印鑑が異なるため、右申請は不受理となった。そこで、Aは、被告に対し、本件譲渡証書に特許出願申請書と同一の印を押すよう求め、被告は右要請に応じる旨回答した。しかしながら、Aは、訴外会社が平成二年三月末頃に倒産したため、被告と一時連絡が取れなくなり、その後、被告に対し、右押印につき催促するも、被告は、カルマリン事業の販売計画が作成されていないこと等を理由に右押印に応じなくなった。

被告は、平成三年七月四日、本件権利の出願人の名義を訴外会社から被告に変更手続をした。原告は、平成三年秋頃、右名義変更の事実を知ったため、Aが被告に対し右名義変更につき問いただしたところ、被告は、本件権利の名義を原告に変更すると、訴外会社の債権者から異議が出て原告に迷惑がかかるため、訴外会社から被告に名義を変更した旨答えた。

原告は、被告が本件譲渡証書への特許出願申請書と同一の押印をせず、本件権利の出願人の名義を被告に変更したにもかかわらず、カルマリン事業の拡大等については被告の協力が不可欠であったことから、被告との間において、平成元年一二月から同三年三月まで本件顧問契約に基づき顧問料として月額五〇万円を支払い、更に、平成三年四月から同四年三月まで月額一〇万円の減額をしたものの、顧問料として月額四〇万円を支払っていた。また、原告は、平成元年一二月から同二年三月の間において、訴外会社に対し、四回に亙り合計四五〇万円を貸し付けた。

(五)  その後、原告経営企画部長A、訴外会社(代表者被告)及び株式会社カルマリン(代表者B)は、平成四年五月二〇日、訴外会社と原告とのカルマリンに関する基本契約を原点に戻し、今後、カルマリンCの販売を株式会社カルマリンが行い、訴外会社の原告に対する二二五〇万円の債務を分割弁済することを協議項目とする合意をした(以下「平成四年五月二〇日付け合意」という。)。

以上のとおり認められる。

なお、被告本人尋問の結果中には、本件契約書作成は平成元年一二月末頃であること及び訴外会社から被告への本件権利の出願人名義変更について原告の承諾があった旨の供述部分が存するが、右本件契約書の作成時期の供述については前掲甲第六号証の一、二、右承諾の供述については証人Aの証言に照らし採用することはできない。

2  被告は、本件代物弁済契約を否認し、その理由として、前記請求原因に対する認否2(二)(1)ないし(3)の事情を主張するので、これにつき判断する。

(一)  前記1の認定によると、原告は、本件代物弁済契約締結の際、被告との間において、本件顧問契約を締結し、被告が本件譲渡証書の押印変更に応じず、また、被告が本件権利の出願人の名義を訴外会社から被告に変更したにもかかわらず、右契約に基づき平成四年三月まで継続して顧問料を支払い、また、平成元年一二月から同二年三月の間において、訴外会社に対し四回に亙り合計四五〇万円を貸し付けているが、原告は、本件合意に基づき、カルマリンに関する事業を行うことになったものの、原告にとっては、右事業は新規事業であって、カルマリンを開発した被告の協力が不可欠であったため、本件顧問契約を締結し顧問料を支払い、また、被告が代表者である訴外会社に対しても融資を継続したものであり(証人Aの証言)、被告に対する顧問料の支払及び訴外会社に対する更なる貸付けの事実をもって本件代物弁済契約が原告及び訴外会社の代表者である被告の真意と異なるものであるとは認められない。

(二)  前記1の認定事実によると、原告は、本件代物弁済契約締結以前においても、原告の訴外会社に対する平成元年四月二〇日付けの五〇〇万円の貸付金債務を担保するために本件権利を譲渡する旨の譲渡担保契約を締結し、その後、右譲渡担保権を実行していないものの、前記1の認定のとおり、本件代物弁済契約締結時においては、原告及び栃木ブリケットは、訴外会社に対し、合計二二五〇万円の債権を有しており、訴外会社は、右債務を弁済する能力がほとんどなかったことが窺われ、右譲渡担保契約時とは事情が異なり、本件代物弁済契約が原告の融資を実行するための形式的なものにすぎないとまでは認められない。

(三)  前掲乙第五号証に、成立に争いのない乙第八号証、第一五、一六号証、原本の存在及び成立に争いがない、乙第一一、一二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第九、一〇号証、A作成部分につき成立に争いがなく、その余の部分につき弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一三、一四号証、証人Aとの証言並びに被告本人尋問の結果を総合すると、訴外会社は、昭和六〇年五月頃から同六二年六月頃までの間において、金融機関等から約三三〇〇万円を借り入れ、被告所有の不動産に根抵当権を設定したこと、その後、被告は、昭和六二年七月頃、港建設株式会社(以下「港建設」という。)から三六〇〇万円を借り入れなどして前記債務を弁済して右根抵当権設定登記を抹消したものの、港建設に対し、被告所有の不動産に抵当権を設定したこと、被告は、右港建設に対する債務を弁済することができず、同六三年六月頃、被告所有の不動産を右港建設に売却したこと、被告は、父から約五〇〇万円の贈与を受けていること、また、平成元年頃、Aが一六五〇万円を借り入れ、訴外会社に対し融資したこと、更に、訴外会社は、平成二年一月頃、A及び被告を連帯保証人として二五五〇万円を借り入れたこと、カルマリンCは、当初、年間三億円を売上目標としていたことが認められる。

右認定事実によると、訴外会社は、昭和六〇年頃以降平成二年一月頃までの間において、金融機関等から相当額の借入れをしているものの、訴外会社は、カルマリンの開発・販売のみではなく、ラクトサットの輸入等他の事業も行っており(証人Aの証言及び被告本人尋問の結果)、右借入金等の金額がカルマリンの開発・販売に費やされたものではなく、また、カルマリンの売上目標は三億円であったものの、前記一1の認定のとおり、カルマリンCは当初において製品上の欠陥があり、本件代物弁済契約締結当時、右売上目標を達成できる価値のあるものかは未確定であったことを総合勘案すると、本件代物弁済契約の対価が著しく不均衡であるとまで認められない。

3  以上によると、原告と訴外会社の本件代物弁済契約は有効に成立したものと認めるのが相当である。

二  抗弁1(暴利行為)について

抗弁1については、右一2(三)の認定説示のとおり、本件代物弁済契約の対価が著しく不均衡であるとは認められないし、右一1の認定のとおり、訴外会社は、栃木ブリケットに対する買掛金代金債務の弁済を滞っていたものの、これにより、右栃木ブリケットがカルマリンの出荷を停止し、原告が訴外会社の窮状に乗じて本件代物弁済契約を締結させたことを認めるに足りる証拠はない。

三  抗弁2(合意解除)について

前記一1の認定のとおり、原告経営企画部長A、訴外会社及び株式会社カルマリンは、平成四年五月二〇日付け合意をなした(乙第四号証)が、右合意については、乙第四号証の標題が「協議項目」であることからして、Aが今後協議する事項につき合意したものであり、本件代物弁済契約を合意解除したものとまでは認められない。

四  原告の請求の可否

前記一1の認定事実によると、本件代物弁済契約は、原告と訴外会社との間において締結されたものであるが、本件代物弁済契約は、原告、訴外会社及び被告との間における本件合意の一部としてなされ、被告は、被告自身及び訴外会社代表者として右合意に関与していること、本件合意においては、原告がカルマリンの事業を行い、被告が右事業に協力することとし、本件顧問契約を締結した上、原告は、被告に対し顧問料を継続して支払っていたこと、被告が本件権利の出願人の名義を訴外会社から被告に変更した理由も右名義を原告に変更した場合、訴外会社の債権者が異議を述べ、原告に迷惑がかかるかもしれないということにあるに過ぎないことの諸事情を総合勘案するならば、被告が本件権利の出願人となっていることは形式的なものにすぎず、いわば、本件権利につき無権利者であり、被告は、代物弁済契約を含む本件合意に関与していることから、被告は、原告に対し、信義則上、本件権利の出願人名義変更手続をする義務を負っていると解するのが相当である。

五  以上の次第で、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 橋本眞一)

第一目録

特許を受ける権利

特許出願番号 発明の名称

①昭和六二年特許願第一〇〇六九号 舐用固形飼料

②昭和六二年特許願第一〇〇七〇号 舐用固形飼料

第二目録

商標登録番号 第二一二三〇〇四号

商標区分 第三三類

ただし、原告と訴外会社の共有とし、持分割合は各二分の一

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